カンナの花
ベンチから立ち上がった。少し先のゴミ箱にアイスの残骸を捨てに行こうと思って、足を踏み出した。
背中を向けた瞬間、駄目押しするように後ろからハグされた。
あっけに取られてから、横目で見ると右肩に彼の頭があった。頭をうずめる様が甘える子どものようで、無性に彼が愛おしく思えた。
わたしは自分の部屋の前でたたずんだ。
彼の後ろ姿がどんどん遠のく。走って追いかけて抱きつきたい衝動を、わたしは必死に抑えていた。彼が角を曲がって見えなくなってからもしばらく動けなかった。
その後部屋で食事をとり、受験勉強をし、お風呂に入って、と"日常"を営んだものの、気はそぞろ、集中できたもんじゃなかった。
ふとんに潜っても眠れない。うぶなわたしには、あまりに刺激が強い出来事だった。