カンナの花


わたしの隣に彼がいた。ふたりでアイスを食べてそして…いちゃいちゃした。


思い出す、という言葉よりもずっと生々しく、彼の気配が蘇る。
無駄に何回も、脳内で再現フィルムが流れた。何回ループしても飽きなかった。


そうして眠りは浅いまま時間は過ぎる。やがて空が明るくなってきて、目覚ましが鳴ったので、潔く諦めて起きた。

時間を持て余したわたしは、もし今日会えたならば、意識してほしい、かわいいって思ってほしい、そう思って、髪に編み込みを施した。



昨日の夜のことは誰も知らない。
なのに、教習所に着いてから、周りから変態だと思われているのではないかと疑心暗鬼になった。


夕べのことは知られてなくても、昨日ロビーでずっと話していたのは見られている。髪型もいつもと違うし、色気づいていると思われていたら嫌だな───。


すべてを忘れたくて授業に没頭しているふりをしたし、技能の時間の最中も教官と世間話を咲かせた。


会いたくないけど、会いたい。
でもどんな顔をしていいやら。
会いたい。会いたくない。


< 26 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop