カンナの花
それ以来ずっと、ひとりになると彼と過ごした夜のことを思い出していた。
自分で自分の手を握ってみたりして、彼の感触を思い出そうとした。そして体はまだ彼の温度をありありと思い出せた。
彼の目を、息を、感触を思い出すたび、背中を何かが駆け抜ける。わたしは彼に会いたい、と、ひとり悶える。
あとから考えて気づいたのは、彼に後ろから抱きしめられた時、彼は両上腕でわたしの胸の感触を味わっていたであろうこと。
胸が膨らみ始めたころはすごく敏感で、自分の二の腕が膨らみに触れることすら嫌だった。そこに女を感じて、すこし気持ち悪かった。
今では何かが胸に当たっても、特別には思わなくなっている。腕に何かが触れたのと一緒の感覚。あんなに嫌がっていたものに、何も感じなくなっていた自分に驚いたし、不用心だな、と思った。
男からすれば、この弾力は特別だろう。ものすごく意識していたに違いない。きっとそこに熱すら帯ていただろう。
彼は狼か。
でも彼になら、喰われても悪くないかもしれない、と思う自分がいた。
女になっていく自分を、正直ずっと受け入れられなかった。体から出てくる赤いもの。寸胴な体だったのに、腰と胸が張りくびれができて。生々しい性を目の当たりして戸惑った、思春期。
でも彼に女として扱われて、嫌じゃなかった。むしろ、快感すら覚えて。
今なら、女である自分を、少しだけ肯定できる気がする。