カンナの花
教習所に来て6日目に仮免許のための検定を受けた。技能試験で一度ふるいをかけられてからペーパーテストを受けて、合格発表まで2時間あるので、彼と出かけた。前日から約束していたんだ。
奥さんにばれるんじゃないの? 近所の知り合いとかに会ったりするかもよ? そしたら修羅場でしょ、と、誘いは嬉しかったけれど、怖くて脅した。そうしたら彼は自信満々に大丈夫と言った。
待ち合わせしてみて理由がわかった。ヘルメットを被せられた。彼もヘルメットを被っている。傍らには、大きなバイク。
しっかり腰に腕を回せと言うから、ぎゅっとしがみついた。実は怖いなんて言えなくて、強がった。彼の背中に上半身を押しつけた。
意識してるかな。
少し遠い街で、フルーツの乗ったかき氷を食べた。何これすごくおいしい!と驚くわたしを、彼は優しい目で見ていた。彼のおごりだった。
駐車場まで歩きながら、手をつなぎたかったけれど勇気がなくてやめた。今回は街中だったし、ハグとかキスとか、皮膚的接触はなかった。それはそれでよかった。
教習所の少し手前で下ろしてもらい、結果発表を待つ。無事に合格した。合宿に来てから初めて母親にメールした。送信ボタンを押しながら、少し罪悪感がかすめた。彼にもメールした。
その翌日、わたしより早く入校していた彼は卒業検定に合格し、自動車学校を卒業した。
これで彼との接点は無くなった。教習生でもない上に奥さんもいる人をどうやって呼び出せるもんか。胸がちくりと痛む。
そんな胸の内とは裏腹に、わたしはようやく他の合宿生の中に友達ができ始めていた。