カンナの花
「確認いたします。お飲み物がエスプレッソひとつと、ウインナコーヒーひとつ。お食事がかぼちゃケーキひとつでよろしいでしょうか。」
「しまざき、ケーキは?」
「え、いらない。はい、以上です」
ウェイターがメニューを閉じて、ごゆっくりどうぞ、と去っていった。
水を飲む。あの日と同じで、コップが汗をかいていて、数滴まとまっては、下へ落ちた。テーブルには、丸。
「今はかんなのお兄ちゃんどうしてんの。」
「家にいる。前までは自分のバイト代で下宿してたけどさ。
ほんとは、あんなお父さんがいる家、出ていきたいけど、うちとお母さんがいるからって、今はいてくれてる。」
「そっか。」
「うちはね、父ちゃんとも普通にやってるよ? だってギスギスしてるのやだもん。
気まずいの、母ちゃんが一番嫌がってね。お父さんと普通にしてって頼んできたくらい。でもお兄ちゃんはなかなか。」
「お兄ちゃんも潔癖なんだねきっと。」
「そうなんだよー。ほんと潔癖。お父さんのこと、気持ち悪く思えて仕方ないって言ってさ。」
「うーん。」
「オレはまだ本当の愛だって知らないけれど、お父さんの言う『どっちも愛してる』なんてちっとも理解できないし、理解したいとも思わないって言ってた。」
本当の愛。
愛ってなんだろうか。
歪んだ愛って本物と言えるんだろうか。