カンナの花
「初めてかんなに会った時さ、お名前なんですか?ってあたしが訊いたの覚えてる?」
「え? あんま覚えてないかも。」
あの頃のかんなは今よりもずっとつっぱっていたもんだ。
それを思うとちょっとおかしくて笑えた。
「ねぇなんで笑うの。なになに。」
「いや、たいしたことじゃないんだけど、なんか、神奈月純ですってかんなが言ったんで、純ちゃん?って返したら、猛烈な勢いでかんなって呼んでくださいって言うからさ。」
「あー、ね。それね。うちが初対面の人に必ず言うやつ。」
「それ自体は別にいいんだけどさ、あの時の顔がすごかったって。鬼の形相ってこれか、って思ったよ。」
かんなは遠い目をした。
「あの頃はねぇ、気持ちグレてたからねぇ。不本意な進路だったし、反抗期だし。」
かんながすでにケーキを平らげていたのに気づいてぎょっとしたが、しみじみ話し始めたので、わたしはひとりで驚きを抱えなければいけなくなった。
「うちね、自分の名前ほんとに嫌いなんだ。名字は神奈月でよかったって思うけど。いや、苗字がこれだとかんなって下の名前はつけ得ないから、ほんとはよくないのかもしれないけど。」
「自分の名前かぁ。あたしは、好きとか嫌いとかあまり考えたことなかったな。」