カンナの花
減らない生クリームのボールをさりげなくかんなの前に置く。
「ほんとに? まぁでもそれって、嫌いじゃないってことじゃん?」
「そうかもね。」
佐衣。漢字はよく間違われるけれど、たまに読み方を問われることもあるけれど。
一瞬だけ。英治さんの声が蘇る。
…さえちゃん。…
───たしかに嫌いじゃない。
「うちは男みたいな自分の名前、好きだったことなんかない。純ちゃんって呼ばれるとむずがゆくていらいらするの。」
そういえば純と呼ぶ人は誰もいない。
「由来はなんなの?」
「由来? なんかユニセックスな名前にしたかったみたいよ。あと、一音節で呼べる名前。」
「へぇ。一音節。そういう考えおもしろいね。」
「まぁ親たちの自己満足だよね。呼ぶの楽〜みたいな。
だから、特にお父さんなんかは、うちが友達にはかんなって呼ばせてるの、気に入らないみたい。」
「純ってかっこいいと思うけどなぁ。」
素直な気持ちを口にしたらかんなは信じられないという顔をした。
「うちは誰よりもかわいいものへのこだわりが強いんだ。
持ち物もそうだけど、自分の世界観は『かわいい』が一番大事な要素なんだ。
なのに、一番自分の看板になる名前がかっこいい系なのが許せなくて。嫌悪感しか持てなくて。ずっと悩んでた。」