カンナの花
4.紅の記憶
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なぎさが学校から帰ると、居間に母親と姉のつかさが向かい合って座っていた。空間の異様な緊張に、なぎさは思わず居間の入り口で立ち止まった。母親の顔面は蒼白で、つかさはそこまでではないにしてもやはり血の気は無かった。
「どうしたの?」
なぎさは制服のまま姉の隣に正座した。沈黙が卓の上に流れる。なぎさの明るく作った声が虚しく空間を漂った。
「ねぇ、どうしたの、なんなの。あたしに言えないことなの?」
短気ななぎさが詰め寄ると、母親は目が虚ろなまま口を開いた。
「お父さんが…」
しかしそこまで言って母親はまた何も言わなくなってしまった。
しばらく母親を睨んだあと、なぎさは姉に向かって険しく振り向く。つかさはため息をついてから言った。
「浮気してたんだよ。」
普段頭の回転が良いなぎさでも、さすがに一瞬理解できなかったようで、しばらく固まっていたが、やがて
「うそでしょ? なにあのクソオヤジ、自分の分際わきまえなさいよ。父親としてどうなのよ」
と喚き始めたのを見て、つかさは短気な上に強気な妹に半ばあきれつつ、半ばうらやましさすら感じた。
ストレートに怒りを口にできてうらやましい。妹の方がのびのびしていて、うらやましい。