カンナの花
「相手は誰なの?!」
母は相変わらず答える気配がない。つかさはため息をついた。
「相手は20歳年下の独身の人。あそこの会計事務所で事務やってるらしい。」
「20も年下? なに、あたしと10歳、つーちゃんとなんか8つしか違わないじゃん! 意味わかんない!」
「なぎさ、落ち着きなさい」
「落ち着けるわけないでしょ?! そんなこと言って、お母さんは悔しくないわけ? 腹立たないわけ?」
「…途方に暮れてるのよ。」
なぎさは一瞬あっけに取られた。
怒り散らせばいいのに。罵って罵って、問いただして、さらに罵ってめっためたにすればいいのに。浮気者は裏切り者よ。
「お父さんのこと、全面的に信じていたし、なんでも任せていたから、何していいのかわからない。」
なぎさはずっと考えていた。自分の気性の荒さはどこから来たんだろうと。
穏和な母と、偏屈者の父。怒りっぽいのとはどちらも違う。
でも、もしかしたら母が反面教師かもしれないとこの時思った。おっとりのんびりした母を見て、わたしはイライラしていたのかもしれない、と。
その夜父親は帰ってこなかった。父はまだ知らない、自分の味方が家族にひとりもいなくなったことを。
母はいつどうやって言うのか。なぎさは気になって仕方なかった。