カンナの花


「だからここに来たんだ。
ここなら前の学校と偏差値とかそんな変わんないけど、国立だから。」


わたしはここに来たくて来たし、この大学に来たくて附属高校を目指したし、国立に入りたいという思いもあった。


特にわたしの育った田舎は他の地方の例に漏れず、私立より国立の方がよい、といった風潮もなきにしもあらず。


ゆえに、ここが第一志望で無かった人の気持ちは、これまで考えてもみなかった。


昔、カンナから同じ話を聞いた時はまだ高校生だったせいもあってピンと来なかったけれども、
あの時この気持ちに気付いてあげられたら、どうにかなっていたのかな。


「最近になって、うちに急にお金が無くなったのは、お父さんが人にお金を貸したからだって知ってね。」


「え?」


「信じられる? 子どもの教育よりね、ろくでなしの弟にお金使ったの。」


「カンナのおじさんってこと?」


カンナは手元のぶどうジュースを啜った。


「うん。
お父さんの弟って人はろくでなしで、もうお互い大人なんだから目をかける必要もないと思うんだけど、お父さんお人好しだから、借金返済手伝ったんだ。」


そしてその“お人好し”が災いを呼ぶ。


「そんなこと知らされてないからさ、わけもわからず受験を余儀無くされて、うちはほんとにお父さんが許せなくて、つい

『顔も見たくない』

って言っちゃったんだよね。
以来、あんまり家に帰って来なくなった。」


そう、言いたくなるのはわからなくもない。親子げんかをしている子どものセリフとしてはそう、珍しいものでもない。




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