カンナの花


「最初は会社に寝泊まりしていたらしい。

そのうちに、同僚というか後輩の女の人が声をかけてくるようになって。

そうやって始まったらしい。」


カンナはそこで再び一息ついた。
持ち上げたパックジュースの跡が、テーブルに残る。それは水たまりのようでもあった。


「4月の終わりごろだったかな?

ある日、お父さんが珍しく帰ってきてて、でもお兄ちゃんはその日ゼミの新歓でいなかったから、3人で家でご飯を食べてたの。

そしたらお父さんが食事中席を立って電話に出て。でもバカでさ、途中で何か押しちゃったのかスピーカーホンになって、相手の声丸聞こえ。」


「じゃカンナも聞いちゃったんだ」


「うん。

でももっと驚いたのは、お母さんは2年くらい前から感づいてたって話。今までずっとひとりで抱えてたみたいで。」


「ママ、気づいてたのに黙ってたの?!」


「それがびっくりだよね。」


「それでさっき言ってた修羅場になるわけね」


「そうそう。まずお父さんとお母さんでけんかになるでしょ。それ見てうちはパニックになって。

途中でどうしたらいいかわからなくなってお兄ちゃんに電話して。ほんとは新歓の邪魔したくなかったんだけど、やっぱりどうしていいかわからなかったから。」


「うん…」


「お兄ちゃんさ、帰ってきた途端お父さんに殴りかかったんだよね。
お父さんは立場弱いんだからおとなしくしてればいいのに、なんか立ち向かっていってさ。
それで殴り合って、歯が折れた、みたいな。

かあちゃん泣いたよね。就活生の歯が〜って言って。お兄ちゃんまだその時内定決まってなかったからね。」


< 7 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop