カンナの花
だからか、とわたしの頭の中で電球が光った。
バイトしなきゃしなきゃ…
ってカンナがとりつかれたように言っていたのは、お父さんが仕事を辞めたからだったのか。
勉強の時間削ってこいつどうするつもりだろう
って正直あきれていたけれど、カンナは切実だったんだ。
「シマザキ、このあとは?」
「4限ある。カンナはもう終わりだっけ?」
「うん。今からバイト。今日で5連勤やっと終わるよ。
明日とか空いてない?」
「あさってなら、昼に終わるよ。」
「じゃあさ、お茶行かない? 気になってるコーヒー屋さんがあるんだよね。」
「いいよ。1時には暇になるよ。」
「それじゃあさって1時に校門で。
バイト行ってきま!」
水たまりを残して、真っ赤なワンピースが翻る。じきに、わたしのいるテーブルが面した大きな窓に、カンナの後ろ姿が現れる。
温度の高い光の中で、赤が滲む。
わたしはそのスクリーンから鮮やかな赤が見えなくなるまで、いつまでも見送っていた。