あたしだけを愛しなさい
……待って、こうするときってどうすればいいんだっけ?
どうするんだっけ?
「ね、ねぇ!」
何も反応なし。
仕方ない、あざだらけの背中でも抓ろうかと思って背中にそっと手を伸ばしたとき。
「契約成立な?内容は、お前は俺んとこ来て俺の話し相手してくれればそれでいいから」
「は?」
なんとも物騒な言葉が聞こえた。
あれ?
何だろう今の。
聞きたくなかったな。
今の言葉、なかったことにできないかな。
「ごめん、意味わかんない。てか理由なんて理解したくもない」
「あ?理由がしりたい?仕方ないなぁー。なら教えてやるって。俺のところ…ここ、保健室でいいや。放課後保健室に来て、俺と話するだけでいいの。簡単だろ?」
「あたしのメリットなくね?」
「契約の終わりと同時に好きなもんなでもやる」
そしてさらに「俺、親金持ちだから大体のもんなら何でも買ってやれるし。それにこんな俺とずっと一緒に入れるチャンスができたってことがすごいぞ?」と言いのけやがるこいつ。
………こいつ、海に沈め。
「あいにく欲しいものなんて自分で買えるし、見た目だけイケメンの性格クズと話なんかしたらあたしの寿命縮まるから無理」
グーッと東くんを押して腕の拘束から解かれようとしても、さらに強く抱きしめられてしまう。
マジで海に沈め!
しかも北極とかの極寒の海。
「あ?ならどうすりゃいいの」
「知るか!」
極上の男と話せてラッキーなんて少しでも思ったちょっと前の自分を呪いたい。
てかあのストーカー、呪う。
「………なら俺の権力振りかざして痛い目見させてやろうか?」
「あたしを舐めないでくれる?いざとなればそこらへんの男に泣き付いてみればどうにかしてくれるし、それに……あたしが大好きでストーカーまでしてる男、生徒会役員だから」
生徒会の力を使えば負ける者なんていないだろう。
この学校の先生たちは、今の代の生徒会が色々凄いことをやってくれるので大好きだ。
だから生徒会の権力=教師の権力。
あのストーカー男のことだから、あたしが頼めばなんでもする。
「……え、ストーカーってさっきの屋上の?…あんなやつ生徒会にいたっけ?」
「ばっちり所属してるし、しかも副会長してるわよ」
あたしのストーカーでも有名だけど、顔と頭の良さでストーカーという事実は全く問題視されていないという腹立たしいことだ。
「……それさ、生徒会の副会長が俺を突き飛ばしたってヤバくね?しかも痣出来てっし」
………あ。
「…大丈夫。先生たち生徒会のこと大好きだから」
「俺のことだって先生たち大好きだと思うけど?親医者だし、頭いいし」
……………。
「男の教師ならみんなあたしのこと好きだもん!あんたより愛されてる自信ある!」
待って、待って。
あたし何言ってんだろ。
墓穴掘ってんじゃん。
それよりもマジでストーカー使えないじゃん。
一気に焦りを感じて頭がこんがらがる。
「それただのロリコンじゃね?」
「いや、高校生と教師ならまだギリギリロリコンではない」
「そこ突っ込むのかよ」
さっきとは立場が逆転したようで、こいつは余裕気に笑っててあたしはどうすればいいか焦りを感じるだけ。
「あたし、自分の思い通りにならないやつ本当に嫌いなの。大っ嫌い。死ねばいいとか思ってる」
「それ俺?」
「そう、だからこのままあたしを解放して、2度とあたしに話しかけないと約束してくれないと殺しちゃうかも」
「殺されたら殺されたでまぁ何とかなるだろ」
ならねーよ。
「だーかーら!離して!!彼女いるんでしょ!?ちくるよっ!東くんがセクハラしてきて、しかも上半身裸で抱き着いてきましたぁーって!」
「は!?なら俺も教師に言うわ。西川さんのせいで背中に大けがを負いましたぁーって」
…………もう、帰りたい。
何このカオスな状況。
「……これさ、もうさ、お互いなかったことにしない?」