psi 力ある者 愛の行方
立ちはだかる憎悪
―――― 立ちはだかる憎悪 ――――
肩を落として、一人図書室へと戻った。
陸は、暇そうに私が読みかけていた文庫をパラパラと捲っていて、ゆっくりと近づく私に気がつくと、満面の笑みを向ける。
「お帰り」
いつもの笑顔。
いつもの優しい顔。
好きなやつを見る目 ――――……
泉の言った台詞が耳の中で反響する。
真っ直ぐ見つめてくる陸の瞳。
その瞳を見続けることが出来ずに、思わず目を逸らしてしまった。
そのまま席に着き、食べかけのまま放置されたお弁当箱を片付ける。
「食べないの?」
不思議そうな顔が、私を覗き込んでくる。
「……うん」
どうしよう。
巧く視線を合わせられない。
「また、具合悪いの?」
俯いたまま首を横に振る。
元気がないと感じたのか、陸は気遣いを見せる。
それも、いつもの事。
そう、いつもの。
この気遣いが家族に対するものじゃないっていうの?
心配そうに見る瞳が姉弟へのものじゃないっていうの?
わかんないよ、泉。
泉の言った事なんて、理解できない……。
けど、一度埋め込まれた疑念は、私の心を動かすのに充分なことだった。
「ごめん。先、行くね……」
結局、一度も視線を合わせることなく、私は一人で図書室を出る。
陸の寂しそうな瞳が、私の背中を見送っているのを感じながら――――。