psi 力ある者 愛の行方
黒谷へ顔を向けたまま、私はゆっくりと口を開く。
まず初めに、訊いておかなければいけないことがあったから。
「黒谷さん」
「何?」
黒谷は、腕を組み、不敵な笑みを浮かべている。
けれど、その瞳は少しも笑ってなどいない。
「訊きたいことがあるの」
「なによ、いったい」
少し大袈裟にも取れるリアクションで、組んでいた両手を広げて見せる。
「左手首の痣なんだけど」
「痣?」
黒谷は眉間にシワを寄せると、そんなどうでもいい事持ち出さないで、と顔を顰めた。
怪訝な顔を向けられながらも、痣のことだけはどうしても知りたい。
それが、証であるのとないのとでは、この先の対処に大きな違いが現れる。
「それ。いつからあるの?」
「そんなの、どうでもいい事じゃないっ」
黒谷は、イライラとした顔つきで、私からの質問を、ふんっ。とあしらいまた腕を組んだ。
「お願い。教えて」
真剣な表情で問う私へ、黒谷は面倒臭いというように深く息をつく。
「この前。少しぶつけて出来ただけの痣よ。それがなんだって言うのっ?」
ぶつけただけの痣……。
私の勘違いだった。
思い過ごしだったんだ……。
黒谷は、力ある者じゃなかった。
ただの一般人なんだ。
事実を知り、警戒心が解かれていく。
黒谷と廊下であったときの邪念はあまりに毒々しくて、もしかしたら本当に同じ力を持つ相手なのかもしれない、と考えていた。
もしそうだとしたら、こんな風に敵対しているのは本当にまずいことだと思っていた。
力を持つ者同士がぶつかり合うなんて、ただで済むはずがない。
つまらない争いごとに巻き込まれるなんて、ごめんだ。
だけど、黒谷が一般人だと解かり、一気に私の気が緩んでいった。