psi 力ある者 愛の行方 


「陸、抱きしめていい?」
「……うん……」

甘えん坊だなって顔をして、陸はうまく力の入らない手を差し出す。

私は、ベッドの端に腰掛けた。

あと少しで、何もなかった事になる。
私が居たことも、生まれてきた事実さえも消えてなくなる。
この小刀さえ消えてなくなり、私の亡骸も消え行くだろう。
そうして、こんなにも愛しあった陸からも、私の記憶は無くなる。

愛しあった人から忘れられる……。

そう思うと、切なさに胸が痛み出した。
けれど、全てを忘れてしまったとしても、深く誰かを愛したという感情だけは、忘れないで欲しい。
こんなにも深く愛し合ったという想いだけは。

知らず視界が揺らめき始めた。
堪えきれない感情に、涙が頬を伝う。

「みち……」

涙をこぼす私を、陸が心配そうに見ている。
まるで、私の方が病人みたいに、陸が心配をしてくれる。

陸は、いつだって私の痛みを自分の痛みのように感じてきてくれた。
苦しみも悲しみも、同じように感じてきてくれた。

「陸……愛してる。大好きよ……。世界で一番、陸の事を愛しているから――――」


< 167 / 176 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop