psi 力ある者 愛の行方 


あの日を境に、俺自身に変化が起きていた。
あれほど辛かった風邪のような症状は、一気に回復して元のように元気になった。

けど、小さい頃から持っていた不思議な力は、消えていた……。

傷を治す力も、人の想いを感じる力も、俺にはもうない。
ただ、普通の高校生で無力な人間になってしまった。

いや、元々無力だったんだ。

愛する人一人も救えない。
無力で、小さくて、どうしようもない人間なんだ……。

どうして俺だけが君の事を鮮明に憶えているんだろう。
君が忘れて欲しくないとでも、願ったのだろうか……。
それとも、神が俺にだけこんな記憶を植えつけたのか……。

いや、ちがう……。

君は、確かに存在していたし。
俺たちは、愛しあっていた。
深く深く、愛し過ぎる互いの感情を壊れてしまわないように抱きしめあっていた。

けれど、君がいないこの場所で、この時の中で。
俺は独り、取り残されたような日々を送るしかない。

ねぇ、未知。
俺たちが犯した罪って、なんだったの?

血の繋がらない俺たちは、結婚だってできたはずだよ。
母さんと父さんはショックを受けるかもしれない。
けど、それだって、二人で頑張って説得したらきっと解って貰えたはずだよ。

なのに、どうしてこんな結末……。

どうして君は、全ての記憶から消え、君自身さえ消えてなくなってしまったの?

俺独りに、こんな記憶を残して――――。



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