psi 力ある者 愛の行方
書斎になってしまった未知の部屋。
その扉を開け、一人佇んでいた。
微かに君の薫りが鼻を掠めていく。
母さんが戻ってくるのと入れ違いに、俺は玄関に向かった。
「ちょっと出てくる」
「もう直ぐご飯よ」
「うん。……ねぇ、母さん。あの部屋――――」
「書斎? そろそろキレイにしなきゃね。埃っぽいものあそこ」
ふうっと小さく息をつく母親に、俺は背を向けた。
「直ぐ戻るから……」
切なさを押し殺すようにつぶやいて、玄関を出る。
憶えていないと分っているのに……。
みんな憶えてなどいないと分っているのに……。