psi 力ある者 愛の行方
予鈴が鳴りだした。
屋上に居る人達が、少しずつここをあとにする。
私も本当はまだこの心地いい感覚の中にいたかったけれど、その未練を振りきり起き上がった。
「泉。先に行くね」
寝転がって、目を閉じたままの泉へ声を掛けて立ち上がる。
けれど、反応はなし。
もしかして、寝てる?
しゃがみこみ顔を覗き込めば、規則正しい寝息が聞こえてきた。
こんなにいいお天気だもんね。
眠くなるのも頷ける。
普段、じっくりと見ることなどない泉の顔を、眠っているのをいいことにマジマジと観察してみた。
小ぶりで整った輪郭に長い睫。
風にそよぐ黒髪に、ちらりと覗く耳のピアス。
確かに、黙っていればモテる顔つきだよね。
顔を覗き込んだまま、泉の頬を人差し指でぷにぷにと突いてみる。
案外柔らかな頬をしている。
「ちょっと気持ちいいかも」
その感触が少し癖になり、近くにしゃがみこんだままぷにぷにと何度も頬に指をさす。
すこし続けていると、突かれた感触に、う、んん……。と声を漏らし、泉の瞼がようやく持ち上がった。
「私、もう行くけど」
いつも通り、あまり抑揚のない声で泉へ言うと、寝ぼけた瞳がまだぼんやりとしている。
「へっ。もう?」
「だって、もう予鈴鳴ったよ」
「えっ?! マジでっ? 俺、次体育なのに。ヤベー、早く着替えねーとっ!!」
急に慌てて起き上がると、お弁当箱を引っつかむ。
「ごめんっ。先行くっ!」
焦った声で叫んだと思ったら、突風の如く私の前から走り去っていった。
……何、あれ?
そんな泉の後ろ姿を、呆気にとられ見送った。