psi 力ある者 愛の行方 


「にしても――――…」

背凭れに預けていた身体をグッと前のめりにし、泉は急にテーブルにかぶさるようにして私へと顔を近づけてきた。

「…――――なに……?」

私は、逆に身を引いた。
近づいてきた泉から、少しでも遠ざかろうと背凭れに寄りかかる。

「惣領が、俺に興味を持ってくれた事が嬉しいなぁって」

だらしのない顔で、泉がエヘヘと笑う。

「別に興味なんて。ただ、その痣が気になっただけ――――…」

直ぐに否定した私の言葉に、泉は少し寂しい顔を浮かべている。
けれど、直ぐにまたあの明るい表情へと切り替えた。

「俺と付き合ったら、いつでもこの痣観察できるよ」

首を傾げて得意の笑顔を見せ付ける。

「何言ってんの?」

私は、呆れた視線で言い返した。

相変わらず、話が少しも噛み合わない。
なぜ、痣の話から海だの山だの。
しまいには、付き合う話に変わるのか。
ついていけないよ、ホント。

私は、小さく息をつきうな垂れる。
その仕草に。

「照れるなって。裸の俺を独り占めにしていいって言ってんだよ。黒谷なら泣いて喜ぶね」

はっ、裸の俺っ?!

不覚にも脳裏に描いてしまった、泉の裸。
一応、断っておくけど上半身だけです。

浮かんでしまったその姿に顔が熱くなる。
しかし、同時に怒りも芽生えた。

「いい加減にしてよっ」

カーッと頭に血が上り、私は席を立つ。

さっきから黙って聞いていれば、何バカな事を。
冗談も大概にしてもらいたい。

こっちは、この世にいる私以外の力ある者のことで真剣なんだから。

立ち上がり、怒った顔の私を見上げ泉は驚いている。
口を開け、引き攣ったその顔へ。

「帰る」

ひとこと告げ床に置いたままの鞄を持ち、さっさと出口を目指した。

「ちょっ! そうりょっ?!」

出て行く私に慌てて、泉も鞄を引っ掴むとダダッと追い掛けるが、二、三歩走り出したところでクルリと今まで座っていたテーブルを振り返った。

テーブルの上には、食べた後の紙くずやカップがトレーに乗りそのまま。
律儀にもそれが気になるのか、しっかりと片付けてから私のことを追ってくる。
私は泉のその姿を一瞥してから、気持ちを落ち着かせるために、何度も深く呼吸を繰り返していた。



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