psi 力ある者 愛の行方
『とにかく、あと少しで着くから着替えておいてくれよ』
早口でそれだけ告げると、ブチッと通話が切れる。
「なーに、それ?」
ガチャリと受話器を置き、無機質なそれに向かっていぃーーっと子供のように顔を歪めた。
会社のお偉いさんか何か知らないけど、食事時になんなのよ。
文句を言いながらも自室へと行き、不服ながらもスカートに履き替える。
上もこの前買ったばかりの服に替えた。
それからキッチンへ戻り、作り始めたばかりのグラタン。
いや、グラタンになる随分前の状態の小麦粉を睨む。
「やーめたっ」
怒り気味に言って鍋をシンクへ置き、勢いよく水を流し込み洗剤で洗い流した。
電話で父がもう直ぐ、と言ったように、それからほんの十分ほどでインターホンが鳴った。
父のお帰りらしい。
いつもは、インターホンなんて鳴らすことがない。
それをわざわざ鳴らすなんて、どれだけ偉い人が来るのよ。
出迎えに来なさい。と言わんばかりに鳴るインターホンに従って、渋々玄関まで迎えに行くことにする。
やだなぁー。
一応、玄関先にある鏡でヘアスタイルなんかを確認してから、玄関ドアを精一杯の笑顔で開けた。
「お帰りなさい」
一応、余所行きの声で父を迎えてみる。
「ただいま」
応えた父は、お偉方と一緒のわりには、ほんわかとした笑顔を浮かべながら入って来た。
ん?
なんだろう、この締まりのない顔は。