psi 力ある者 愛の行方
説明の足りない父に代わりに、詩織さんが私の目を見つめ話し始めた。
「知己さん……お父さんから何も聞いてなかったみたいで、驚いたでしょう?」
本当にごめんね。と申し訳なさそうに頭を下げる。
「あ……はい……」
戸惑いながらも、私は何とかそれだけ口にした。
父のことを知己さんと呼ぶ詩織さん。
恋人同士のような呼び方に、父へ対する親しみが出ている。
それより、確かに何も聞かされていなかった。
何も知らなかった。
おかげで、この空間に居る事が酷く気まずい。
詩織さんの話によると、再婚話は一ヶ月も前から決まっていたという。
なのに父は、どうしても私へ言い出せないまま、ズルズルと今日になってしまったと……。
ここの所父の様子がおかしかったのは、こういう事だったのか。
こんな事なら、もっとしつこく聞いておくんだった。
今更後悔しても遅いけれど。
籍は、今月中に入れるらしく。
一緒に住み始めるのは、今週末の土曜からだと言う。
今週末とは、あと三日……。
いくら知らなかったとはいえ、事が進む速さに開いた口がふさがらない。
そんな私へ何度もごめんね。と謝る詩織さん。
その度に私は、いいえと他人行儀に首を振るしかなかった。
大事な事を話さずに今日まで来た当の本人の父は、面目なさげに大きい身体を小さくしていた。