psi 力ある者 愛の行方
彼女の左手首。
今までそこには、買ってもらったばかりの真新しい腕時計があった。
新品の物を買ってもらう昨日までは、それ以前に使っていた物があったはず。
だから、気づかなかったんだ。
気づく事ができなかったんだ。
そこに、三日月があることに――――。
教室を一歩出て、息を飲む。
けれど、立ち止まらず緩い足取りのまま歩を進めた。
また、痣を見つけてしまった。
これで二人目。
どうして?
何故?
ここへ来て立て続けに気が付いてしまった、同じ痣のある人物。
泉。
そして、黒谷――――。
「嘘でしょ……」
誰に言うともなく、小さな声が漏れる。
まさか黒谷にまで、あの痣があるだなんて。
思いもよらぬ相手だった。
ううん。
それは、誰にあったとしても同じだろうけれど……。
黒谷は、力ある者なの?
可能性は、ないとはいえない。
泉にしても同様だけれど、痣がある以上は疑ってしまう。
考えこんでいるうちに、何か例え難いような恐怖が全身を駆け巡っていった。
泉の痣を発見した時とは、違う。
それは、悪寒の走るような、おぞましい感覚だった。
背筋がゾクリとしてくる。
教室から十数メートル離れた場所で立ち止まり、私はゆっくりと教室のある後ろを振り返った。
そこには腕を組み、私を睨みつける黒谷が、恐ろしいほどのギラついた目をして立っていた。
心臓が、ドクリと嫌な音を立てる。
背筋の悪寒が激しくなる。
私は、絡みつく視線を振り解き、逃げるように階段を駆け下りる。
助けて。
何故だかそう思ってしまうほどに、その視線がイヤでたまらなかった。