完全無欠⁈ お嬢様の執事
だだだだだだだだ‼︎
大慌てな2人分の足音が、一階から階段を恐ろしい速さで、登ってくる。
そして、彩の部屋のドアが壊れるかと思うほどの勢いで、開け放たれた。
「彩ーー‼︎
どうした⁈ 大丈夫かーーー‼︎」
「彩ちゃん‼︎
どうしたの⁈ 変態が出たのーー⁈」
部屋に転がり込むような勢いで、2人の男女が、それぞれ木刀と箒を握りしめて入って来た。
彩に手を伸ばそうとしていた男は、男女の姿を確認すると、すっと引き、また先程のような完璧なお辞儀を彼らにする。
「すみません、旦那様、奥様。
私がお嬢様を驚かせてしまったようで…」
「ん? 誉(ほまれ)?
なんか出たのか?」
「誉ちゃん。
あれ?変態さんは?」
旦那様、奥様と呼ばれた2人は、キョロキョロと部屋の周りを見渡す。
「おっ、お父さん!お母さん!
目の前にいるでしょ⁈
変な人がーー‼︎」
彩は、目をがっちりつぶったまま、誉と呼ばれた男をぶんぶん指差す。
「へ?
誉だろ?彩。
何言ってんだ?」
「え⁈
誉って…誰?」
「こいつだよ。
お前の「執事」だろう」
自分より少しだけ背の高い誉の肩に、手を置いて、この家の主、神谷 康介は不思議そうな顔をして言った。
「……へ?
執事? なんの話⁇」
彩はパニックから、落ち着きを取り戻すも、今度は父が何を言っているのか分からず、困惑した。
「…康ちゃん。
執事さんが来てくれる事、彩ちゃんに言った?」
のんびりと康介の妻の神谷 美優は、彩のベッドに腰掛けて、布団にくるまった、彩の身体を優しく抱きながら、夫に問いかけた。
ベッドの横には、先程まで握りしめていた箒が立てかけてある。
問いかけられた、康介は誉から手を離し、少しの間、微動だにしなかった。
「…………あ………。
忘れてた」
あはは〜と康介は、後ろ頭を掻きながら言う。
「ごめんな〜」
彩の部屋に、なんとも言えない空気が漂う……………。