かけがえのないもの
わかっていました、はじめから
目が覚めるとオレンジが空を染めていて、目の前にも晋弥兄ちゃんはいない
きっと何処かへ行っているんだ、そう思い鞄を取りに教室へ帰れば数人の女子が理央を睨んでいた
「ちょっと、付いてきなさいよ」
「帰るから、私晩御飯作らなきゃ」
「いいから来なさいって言ってるじゃない」
半ば無理矢理トイレへ連れていかれるとタイルの壁に体がぶつかる
在り来たりだな、なんて少し心の中で笑いながら俯いて
「アンタ、晋弥先生のなによ」
「妹、それ以外何があるの」
「妹でこんな事するのかしら?」
ペラリと見せた写真には手を繋いで理央が晋弥に座っている様子が写されている、普通は焦るだろうが理央は無表情で言う
「好きにしたらいい、だけどそれが晋弥兄ちゃんに迷惑になると知らないの?」
女はたじろげば悔しげな表情をした後、理央の頬を叩いていた
熱いと言う感覚から痛みに変われば理央は水で頬を冷やすも女子初洗面台に水を溜めて理央の髪を掴み
理央の顔を水の中へと入れていった
上げては下げる
そんな事を繰り返すうちに女子は満足したのか笑いながら去っていく
水浸しの自分をハンカチで誤魔化す様に拭けば教室から鞄をとって保健室へ向かう
晋弥はもう帰る準備を済ませていた
「なんで濡れてんだ?」
「少し、ドジってさ」
はは、と笑うと訝しげに見てくる晋弥の視線から逃げる様に“早く、帰ろう”と告げて長い廊下を歩いて行く
泣いちゃダメ
私は覚悟はしてたんだから
だから、少し位
我が儘を言っていいかな
続く