露店街魔法行路
長年さがしつづけて来たその人の孫娘が
目の前にいるとは、とても信じられなかった。
ロムストレムルはその名声を拒んで
世界から消えてしまったからだ。

しかし、ロムストレムルとの対面はついにかなわなかった。

少女の話によると
祖父であるロムストレムルは昨年他界したとの事であった。
名声とはうらはらに一家は貧しく
これらの品々は
ロムストレムルが生前手放さなった収集物であるが、
少女の姉には結婚を誓いあった婚約者がいて
姉の持参金を手に入れるため
どうしてもまとまったお金を手に入れなくてはならなく
売りに出す事になったそうなのだ。

そんな話しにはどうもぼくは弱いのだ。
もちろん女の子にも。
なけなしの財布と相談して次の品を買った。

琥珀の指輪
(琥珀の中に見た事もない花が咲いている)
挿絵入りの歩行植物図鑑。
(著者不明)
鍵の掛かった小箱
(鍵ナシ。中に何か入っている)

指輪は珍しいモノだし、まぁ贈り物になるだろう。
ふと、あの子の顔がうかんだ。
歩行植物は何回か飼った事があるが
よくなつくし、手間もかからない。
ただし往々にして、脱走して消えてしまう。
挿絵の中にはまだ知らない珍種も書かれていた。
この鍵のない箱に
なぜかぼくは一番つよく引かれた。
ロムストレムルのその人が閉じ込め時間が
この中にあるのではなかろうか。
そんな感傷めいた考えがうかぶ。
何が入っているのだろう。

少女はたいへん感謝してくれた。
朝からまったく売れずに途方にくれていたそうなのだ。
まぁ、ロムストレムルの名を知るものは少ないだろうし
けっこうな高値が付いていたのだから、しかたない。

また何かあれば買いたいと申し出て、
連絡先もおしえてもらった。

そして先程かえって来て
さっそく鍵開けをしてみようと思ったが、
それはやめた。
わからない方が楽しめるる事もあるし。
鍵が掛かっているのなら、開けてほしくはないのだろう。

ぼくは指輪を手にして
明かりに照らして中に眠る花を眺めた。
時の中でも変わらないものもあるのか。

これを渡せる日が早く来れば良いのに
そんな事を考えた。
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