幸せいっぱい
雨の日
10年前。雨のよく降る日だった。

たった2人だけで暮らしていたのにお父さんが死んでしまった。

私を1人だけ残し、死んでしまった。

残酷だと思った。

世の中は…神様は…残酷だ。

……………。


「…なに?またなんか思い出してる?」

「……別に?雨すごい降ってるなーって。」

私は部屋の窓から空を眺めている。

「…台風がくるらしいぞ。」

私はゆっくりと表情を変えずに振り返る。

無駄に背の高い知的ぶった眼鏡が無駄に背の小さい私を見下ろしている。

「ふーん…。じゃあ今日は日向(ひなた)の部屋で寝ていい?」

私たちは同い年で同じ学校に行っている。

同じクラスで同じ家に住んでいる。

「いいけど…一応俺たち高2だし、家族だけど俺は男なんだからもう少し危機感持ってほしいんだけど?」

だけど、本当の家族なんかじゃない。

「…そうだね。日向は家族だけど親戚だしね。本当の家族じゃない。今日も自分の部屋で寝るよ。おやすみなさい。」

私は窓から離れ自分のベッドに腰掛けた。

日向は私の腕を少し強引に掴んだ。

「俺たちは家族だ。…親戚なんかじゃない。それに迷惑だとか思ってない。…部屋にお前の分の布団敷いてくるから。」

待ってろ。とだけ言って私を部屋に取り残し自分の部屋へと戻ってしまった。

…つまりは罪悪感。

自分が「家族」という単語を出した結果、私に辛いことを思い出させてしまったと思い込んでる。

日向は優しい。

親が死んで私がこの家に引き取られてから10年間そうやってずっと私に気を使ってくれているんだろう。

「…ごめんなさい。日向。」

私は部屋で1人呟いた。
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