チャンスの神はここにいる
これからの傾向など
皆で配られた用紙を見直してたら
「早く着替えて帰って下さい」
扉の向こうで薄毛ディレクターが叫ぶので、私達はブツブツ文句を言いながら着替えて各自解散となる。
一番に帰り支度をし
キョロキョロと見回しながら
控室を忍者走りで飛び出した。
スキンヘッド遠藤に見つかりませんように。
本日最大の願い。
息を切らして玄関まで逃げ切り
ホッとしていたら
スコア中西さんと純哉君と亮平君に遭遇。
三人でタクシーに乗り込むとこだった。
本音を言えば
亮平君の名前を叫び
『おめでとう』って抱きつきたかったけど、純哉君の怖い顔が浮かび断念。
その代り
「スコアさんっ!」って、小山のような背中に叫ぶと、スコア中西さんはご機嫌で振り返る。
「あぁメグちゃん。おつかれー」
自分の事務所の後輩が勝ち抜いてご機嫌な先輩。
「今日はありがとうございました」
しっかり頭を下げると不思議そうな顔をされたので「シュークリーム突っ込んでもらって、ありがとうございました」と、理由を言うと「あー」って納得。
「痛くなかった?乱暴でゴメンね。また今度狙うから。これから事務所の連中集まって飲み会だからお先に」
スコアさんはそう言い
亮平君と純哉君と一緒に
タクシーで行ってしまった。
純哉君はさっきまで私を自分の胸の中で抱き、優しく慰めていた顔も見せず、他人行儀に私に軽く頭を下げる。
亮平君は
寂しそうな笑顔をチラリと私に見せただけ。
あんなに楽しみにしてた日なのに
憧れていた初戦突破の日なのに
今日一日で
亮平君が遠く感じてしまった。