チャンスの神はここにいる

それから
番組は大きなゲームショーの話題になり、それが終わると新人お笑い勝ち抜き戦のコーナー。

いつもなら
集中する自分たちの出番を、純哉君は早送り。

どうしたの?

そしてネタのラスト近く
ある場面で一時停止し、純哉君は顔を見合わせて私に「静かに」って言い再生ボタンを押すと

「いてーっ」

まるで放送事故のような遠藤の叫び声が、しっかりマイクに入ってる。

青ざめる私。

気付かない人は気付かない。

でも
やっぱり入ってたんだ。

画面はブルプラのネタが終了し、二人の顔がアップになるんだけど、その奥で遠藤が私の座ってるひな壇の後列から前列に移動している姿が小さく映ってる。

「どうしたの?」

亮平君に言われて黙ってると

「言え」

怒りの大魔王。
眼鏡の奥の瞳が怖い。

私はこないだの咲ちゃんの時のように自白しそうになったけど、もし……遠藤に絡まれた事を言って、亮平君が気になったらどうしよう……まだあと5週もあるのに、出番に集中できなくなったらどうしよう……その事が頭から離れなかった。

だから

「今は言えない」

顔を上げ
彼らに言うと、二人は顔を見合わせる。

「お前は……」

「わかった」

亮平君は純哉君の口を閉ざし
私の手を握る。
優しい大きな手。

「今回は、メグちゃんが話したくなかったらそれでいい。でも困ったことがあれば必ず話して」

真剣な目で言ってくれた。

柔らかなくせっ毛
澄んだまなざし
スッと通った鼻

優しくて温かい人。

大好きな亮平君。
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