チャンスの神はここにいる
「今日はありがとう。偶然に感謝する」

「うん」

私も感謝する。

「から揚げのオマケもついたし。メグちゃんと話もできたし嬉しかった。本当の事を言えば、あの番組いつも観ていてさ、何気に気になってた女の子だったから」

「さすがお笑い芸人。上手い事言うね」

頬が赤くなったけど、暗がりでよかった。

社交辞令をサラリと受け流そうとしていたら
「本当だって」
亮平君の声のトーンが乱暴に低くなる。

心臓に悪い。
ドキドキしてる私。

「アドレス交換したら、彼氏に怒られる?」

「彼氏いないから。半年前に別れた」

二股かけられ
捨てられたなんて言えません。

売れてないけど、グラビアアイドルとしては封印したい。

「俺も……今はいない」

「本当に?」

『彼女なんていない』って言うこの業界のヤツは、7割ウソツキ。

「三ヶ月前にフラれた。ほとんど自然消滅。売れてないからバイトしたり事務所の雑用に追われたり、ネタの練習したり、とにかく時間が作れなくてフラれた。でも今はね、目標があるから女の子よりそっちの方が大切。女の子と遊んでたら純哉に殺される」

「目標って?」
私が聞くと

亮平君は右腕をスッと伸ばし、星が見えない空に真っ直ぐ人差し指を突き出した。

しなやかな長い指が天を指す。

「純哉とてっぺんとる」

静かな口調が逆に迫力を増し

さっきまで汗ばんでいた私の熱い素肌に鳥肌が立つ。

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