チャンスの神はここにいる


すると亮平君は「わかった」って言い、私の目の前から一歩下がる。

部屋の温度が冷たい。

ミニスカートの足元から
スーッと寒気が襲い
ぴっちぴちニットのおかげで背中にかいた汗に届き、身体全体が冷たくなる。

「一回別れよう」
亮平君は静かに言った。

別れよう?

耳を疑いながら
私は背の高い亮平君を見上げた。

亮平君の胸元には
私がプレゼントしたネクタイ。

泣くつもりはなかったのに
知らないうちに目に潤み
ネクタイがゆがんで見える。

「もう一度仕切り直そう。友達からまたスタートしよう」

友達から?

喉元に熱い物が込み上げ
息が苦しくなる。

「また最初から……」って亮平君が言うと同時に、亮平君の頬が鳴り、私は右の手のひらをジンジンさせる。

平手打ちって
初めてしたけど
こんなに後味悪くて
上手に音が鳴らないものなんだね。

「私を『離さない』って言ったじゃない」

私の突然な暴力に驚きながら
亮平君は黙って私を見下ろす。

「私の事『大好き』って何度も言ったじゃない。私から『別れよう』って言った時、『目の前が真っ暗になって倒れそうだった』って言ったじゃない」

テレビ局の狭い楽屋で
精一杯大きな声を張り上げてしまう。
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