チャンスの神はここにいる
考えが甘かったと一瞬で血の気が引く。
ロックされた音にビクリと身体が反応した。
「すいません!」
ふたりの舐めまわすようないやらしい視線を無視して、もう一度頭を下げて逃げるように背を向けたら、右手首に痛みが走る。
じっとりとした汗ばんだデブキャラ鈴木の手が、私の手首を捕えていた。
「うちの相方の顔に傷付けといて、それだけかい?」
「謝るなら脱いでくれんとなぁ」
デブキャラ鈴木はグイグイと私の手を引っ張り、ドアから遠ざけ小さな二人掛けソファに座る遠藤の前に突き飛ばす。
「痛っ……」
スキンヘッド遠藤の膝元に足を崩して座る形で、私は恐る恐ると顔を上げる。
「脱げや」
堂々と言われて
「嫌です!」
はっきり言い切ると、スキンヘッド遠藤は私に付けられた爪痕を指さしながら、私の顔に自分の顔を近づけた。
うっすらピンクの傷跡は
栄養不足のミミズのように
遠藤の頬の上を歩いていた。
「お前いいのか?もうこの世界から追い出すぞ」
大きな声で怒鳴られ
怖くて泣きそうになりながら
ただ首を横に振り
「追い出されてもいいです」
売り言葉に買い言葉
このまま負けたくない。
せっかく入ったこの世界
さっき総選挙一位になったばかりなのに
応援してくれた友達、家族の顔が浮かび
こらえていた涙が知らないうちに頬を伝う。