チャンスの神はここにいる
まだまだこれから


亮平君は片手に私の荷物
もう一方の手で私の手を握り

交差点を走る。

「走るとアゴが痛てー」
涙目で走る亮平君。

息を切らしながら横目で彼を見ると、デブキャラ鈴木にかまされたアッパーがジワジワ効いてるらしく、唇の下からアゴにかけて色が変わってる。

「口の中も切ったでしょう。大丈夫?」

「苦いけど大丈夫」

「血は止まった?」

「メグちゃんとキスして治った」

「亮平君」

「ラストスパート!」

目的の大きなビルが目に入り
裏口に回ると時間がかかるので、正面から飛び込みエレベーターを探す。

都会の夜は眠らない。

小さな劇場を沢山かかえるこのビルも時間の感覚はなく、明るいロビーに若い女の子達がたむろっていた。

「亮平?」

「まじ?」

頭を盛ったギャル系女子の声を聞き、亮平君と繋いだ手を離そうとしていると

「いいから」って、余計彼は力を入れて私の手を握る。

「だって……」
彼女たちの視線を感じながらうつむくと

「いいんだ」

ハッキリとした声が聞こえ、エレベーターの扉が開いて私達はそれに乗り込む。

「俺達の舞台を観て」

「うん」

上昇する小さな箱の中
もう一度キスをする私達。

彼の舌が絡まり
ドスンと私の荷物が彼の手から落ち、細く長い指も絡まる。

何度しても

したりない……。

キスだけでこんなに貪欲になる自分が恥ずかしい。

名残惜しく唇を離し「エレベーター故障しないかなー」こんな時に彼はそんな冗談を言い、私は笑ってしまった。

同じ気持ちだよ。

無情にもエレベータの扉は開き、また私達は猛ダッシュ。
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