チャンスの神はここにいる
開演時間寸前になると
客席の9割が埋まる。
真上にある照明が暗くなり
芝居の舞台のように正面ステージが明るくなった。
そろそろトップが出てくるかなって思っていると
スーツ姿の亮平君と純哉君が軽やかにマイクに向かって走ってきた。
前列に陣取っている女子高生らしき子達が歓声を上げている。
あれ?トップだっけ?
確かラストから二番目だと思ったんだけど
プログラムを見直す前にその理由がわかる。
いわゆる前説ってやつで
本番前にお客さんへの注意事項を言いながら、リラックスさせる役目の人。
チケットもぎりもやって
グッズ販売もやって
前説もやるんだ。
そう言えば
小さな事務所の下っ端だから
全部やらされるらしい。
先輩の生理用品も買わされるぐらいだものね。
なるほど。
感心しながら
私はまた視線を舞台の2人に集中。
「面白かったら笑うように」
「面白くなくても笑うように」
「撮影禁止の電話禁止」
「ピザの注文もダメ」
「とにかく楽しく過ごしましょう」
「サハラ砂漠より広い心で観てちょうだい」
「乾いた心はいらない。現金は歓迎」
そんな会話をしながら
表情も大げさに観客を惹き込む。
3分くらい話をして盛り上げ
「ではトップです……」
会話のキレよく
スマートに最初の出演者の名前を呼んで、軽やかにハケてゆく。
流れが自然で綺麗だった。