チャンスの神はここにいる
違うんだ
こんな話じゃない。
私が伝えたい内容は
それじゃない。
どんなに亮平君がキラキラ輝いていて
生き生きしていて
私にはない華があって
自分が情けなくて
取り残された気持ちになった事。
それは私の胸の中で黒く大きな塊となり
喉元から出て来ない。
イガイガと引っ掛かっているのは
きっと自分の黒い気持ち。
口の中が苦い。
亮平君は楽しそうに先輩たちのライブにおける裏話などして、私を盛り上げようとしている。
駅が見えてきた。
「あのね亮平君」
切符販売機の所で、私は塚本さんに会った事を彼に告げる。
もちろん
内緒の話は言わない。
この世界で信用を失うと
後から大変な事になるから。
塚本さんが観に来て
亮平君達を褒めて『売れる』って言ってくれた話だけ伝えよう。
おめでたい話だけをしよう
大手事務所の【コリアンダー】の話は、後日2人が揃ってる時に話そう。
私が塚本さんの話をすると
亮平君はとても驚き
一瞬表情を固めてから
「マジ?」
鳩が豆鉄砲くらった顔って
リアルにこんな顔だろう。
「まじ」
自信を持って私は言う。
すると
「信じられない。ありがとうメグちゃん。君は俺らの女神だ。ありがとう。すぐ……あ、すぐに純哉に言う。嬉しいよ。スゲー嬉しい。超最上級に嬉しい」
目を大きく開き
この世の幸せは全てもらった……そんな顔をしている。
「よかったね。早く戻って教えてあげなよ」
「うん。ありがとう」
それで終わると思った。
そこで亮平君は私の言葉に夢中になり
もう振り向きもせず
純哉君の元へ行くと思っていたら
「メグちゃん」
柔らかな声がしっとりと私を包む。