チャンスの神はここにいる

ずっと手を繋ぎ

ずっと彼は話を続ける。

「マツキヨで会った時、かなり焦った。知らん顔で『どちらさん?俺のファン?』みたいな顔してたけど、本当は『メグちゃんだ!』って口から心臓飛び出そうになった。最初からメグちゃんってわかってたけど、俺はこんな情けない買い物をしている最中で、正直言えば逃げ出したかった」

ガタンゴトンと
古い電車の振動も愛おしい。

「だから見栄が邪魔して『ファンです』って言えなかった」

「……言ってよ」

「せめて生理用品じゃなくて、トイレットペーパーなら正直に言えたんだけど」

真剣に言われ
私が笑うと彼も爽やかな顔で笑い返す。

「初のテレビがメグちゃんの番組で、かなり舞い上がって緊張して……ネタをミスって純哉に怒られた」

重ねた手を自分の膝の上に置き
亮平君は私のネイルを何度も確認するように、自分の指で愛撫する。

「もう一度リベンジしたくて、次に会った時は絶対運命だって思っていたら、運命がお弁当屋で待っていて」

「ただ単に、私達の行動範囲が狭いって話かも……」

「夢のない話はしない」

きっぱり強気で言われてしまった。

亮平君って夢見るタイプかな。
メルヘン好き?

「俺はずっとメグちゃんのファンだった。いつもあの番組観て、目立たない立ち位置だけど、笑顔がとっても可愛くて『この子も頑張ってんだろなー俺もガンバロー』ってさ」

電車が駅に停まり
私は亮平君に手を引かれて歩き出す。

「かなりカッコ悪いだろ。売れてない芸人だから恥ずかしくて、堂々とできなくて……『メグちゃんですよね。ファンです』って最初から言えなかった」

さっきからマナーモードで亮平君のポケットからスマホが振動中。

きっと純哉君だろう。
それもかなり怒ってる。

それでも私達は手を繋ぎ
時間を惜しむようにゆっくり歩き

マンション前に着いてしまう。
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