チャンスの神はここにいる


待ち合わせの場所に到着すると

亮平君が先に立っていた。
黒のジャケットがよく似合う。
背が高いからカッコいい。

モデルみたい。

私が軽く手を上げると
すんごい顔で
私に向かってまっしぐら。

何?逃走中?鬼ごっこ?
私、捕まる?

目を白黒させてると
『この人チカンです』的な感じで腕を強くつかむ彼。

どっ?どうしたの?

「塚本プロデューサーから事務所に電話来た」
砂漠でラクダを見つけました
絶対手放しません。
そんな顔してます。

目をランランと輝かせ私に迫る。

「メグちゃんの出てる番組。新人お笑い芸人勝ち抜き戦。7週勝ったら準レギュラー」

接続詞のない言葉が彼の興奮を物語る。

「俺達に『出ないか?』って……」
亮平君の目が潤んでる。

そうか
私が昨日
口止めされた話だ。

「やっぱりメグちゃんは女神だー」

亮平君は私の背中に手を回し、大きな声を出す。

周りの目など気にせず
嬉しそうにギュッと抱いて

「ありがとう」って耳元で囁いた。

柔らかい髪が額をくすぐる。

「私、何にもしてないよ」
押しつぶされそうなその胸の中で小さく言うと

「その存在だけで感謝する」

「亮平君」

「ん?」

「苦しい」

「え?……あ、ごめん!」

そこでやっと彼は我に返ったように私から離れて大きな手を出し、私もその手に自分の手を重ねる。

「行こう。ゆっくり話そう」

甘い声に誘導され
街の隠れ家的なビルに到着し
エレベーターに乗り込んだ。

場違いの不安があったけど

彼の掌から伝わる温かさが不安を消し去った。

彼は店の扉を開く。

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