チャンスの神はここにいる

番組は無事終わり

「はい!おつかれさまー」って塚本さんの大きな声で歓声が上がる。

終わった。

抜け殻気分で席を立ち
ネームプレートを髪から外してスタッフに渡す。

「超緊張した」

「いきなり胸タッチだもんね。ウケるー」

「自己紹介あってよかったー」

そんな会話をしながら
今日から入った10代の女の子達は私を見て鼻で笑い、目の前を通り過ぎてゆく。

自己紹介

名前しか言えなかった。

可愛い顔もできなかった。

せっかくのチャンスだったのに
何も言えなかった。

悔しくて悔しくて
涙がじんわり出そうだけど
慌てて唇を噛みこらえる。

泣いたら負け。

泣くもんか。

セットの前で塚本さんが「急に無茶しないで下さい」って、ちゃんごらす遠藤に声を上げているけど

「ウケたからいいじゃん」

悪びれも無く遠藤は言い
頭を下げて横を通る私の身体をジッと見る。

爬虫類のような目に悪寒が走った。
< 82 / 301 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop