チャンスの神はここにいる



ガリガリ……ガリガリ……。

コーヒーミルの音と豆の香りが広がる。

誰?
お父さん?

『インスタントの方が早いよ』

『味が違う』

大きな手でコーヒー豆を挽き
シルバーに光るコーヒーポットにお湯を沸かし
細い細い口金からそれを落して豆を湿らす。

うっすら蒸らして1分
それから中央に細くお湯を入れ、グルグルと円を描きながら細かい泡をふくらませる。

口数は少なく
会話もそんなになかったけど

お父さんは魔法使い。
世界で一番美味しいコーヒーを私に飲ませてくれる。

上京する時
私に持たせてくれた
コーヒー豆とミルとサーバー一式。

心を静かにしたい時
何かで悩んだ時
ゆっくり美味しいコーヒーを煎れて飲みなさいって、持たせてくれたけど……余裕がなくてまだ未使用。

ガリガリ……ガリガリ……いい音といい香り……って!

急に頭が回転し目を開けると

亮平君の顔が間近にあって驚いて、叫ぶ寸前状態。

なんか狭いと思ったら
なんか暑いと思ったら

シングルベッドに私達は二人並び
ベッタリくっついて寝ていた。

亮平君

まつげが長い。

綺麗な寝顔。

キスしたい……。

そんな欲望がムクムク湧いてきた瞬間

「エッチ禁止」

台所から声が聞こえ
ゆっくり頭を向けると

「コーヒー飲む?」

俺様大魔王が笑って私を見てたので、「うん」って小さく返事した。
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