その一瞬さえも、惜しくて。
目の前で先生はジャージからスーツに着替えだした。
陽太先生のスーツ姿は凄く大好きだけど、
この時間はとてつもなく寂しくて辛い。
「ひかりも帰る準備しろよ、
気をつけて帰るんだぞ。」
わたしはそんな先生の背中を見つめて
飲み干したココアのマグカップを、そっと流しへ置いた。
「うん、わかった。先生、お仕事頑張ってね!」
ありがとうな、って、笑いながら先生は
わたしの頭をポンポンっと撫でた。
わたしが先に体育教官室を出ないと
先生は戸締りができないし、
もちろん誰かに見られたら大変だから
一緒に部屋を出ることなんて出来ないんだ。
わたしがこの場から離れなければ先生も帰ることは
出来ないのに。
そんなわがまま、言いたくても言えない。
先生には、わたしのわがままで負担をかけたくないから。