その一瞬さえも、惜しくて。




それは私が中学三年の頃だった。



―――


「ひかり、お母さん再婚することにしたから。
急だけど。
ちゃんと挨拶しなさい。」





そう言って、お母さんの横にいたのがあいつだった。



それはお父さんとお母さんが離婚してから二年が経った頃だった。






お母さんは最近外に出ることが多かったし
男がいるんだろうなって言うのはうすうす感じていたけれど

離婚してからもそんな簡単にすぐ他の男と再婚できる
ものなのかと中学生ながら思っていた。





「こんにちわ、君がひかりちゃん?
可愛いねえ、よろしく。」


不気味に笑った奴の顔、今でも忘れない。



「こらこら、わたしの大切な一人娘なんだからね。
いじめないでやってよ。」



大切な一人娘だなんてよく言うわ。
お父さんが残していったお金で一晩中ふらつきまわってるくせに。





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