その一瞬さえも、惜しくて。
お母さんが家を出て行くのを確認すると
奴はわたしを見るなり口を開いた。
「お前、男のために高校を選んだんだって?
ふっ、つくづく親子は似るもんだね。」
奴は笑いながらわたしに近づいた。
「お母さんそっくりだな、男には目が無いのか?
そうやって色仕掛けで男を騙すんだろ。」
嫌な予感がしてわたしはあわてて自分の部屋へ
逃げようとした。
その男を知る前に男を知っておけ、
その言葉が頭の中をループする。
気付いた時には、わたしは自分の部屋のベッドの上で
ぼろぼろになって泣いていた。
洗面所へ行き何度も何度も吐いた。
何度も何度も身体を洗った。
でも、あの感覚を思い出すたび涙と吐き気が止まらなかった。
あの日、わたしは汚れた。