その一瞬さえも、惜しくて。
夕方でお母さんは仕事に行く前だったから
まだ家にいると思う。
そう言うと陽太先生の車に乗ってわたしの家まで走らせた。
不安なわたしに気付いてか、ずっとわたしの右手を
握っていてくれた。
それだけで不思議と落ち着いて、安心できた。
家に帰ると、お母さんはキッチンの前で
たばこをふかしていた。
荒れ果てたリビングに空き缶の数、
陽太先生はかなりびっくりしていた。
「あれ、あんた帰りが早いんじゃ...
て、お客様?」
陽太先生はぺこりとおじぎをした。