その一瞬さえも、惜しくて。
「いいよ、普通の生活にはもう飽き飽きしてるんだ。」
冗談まじりで彼女を笑わせようとしたけれど
それとは正反対で
呆れたような、ため息が返ってきた。
「兎に角、興味本意なら
私と関わらないほうがいい。それだけ。」
そう僕に告げると
鳴瀬ひかりは赤い傘を広げ
外へと歩いていった。
そんな彼女の背中に声をかけるほど
今の僕には勇気も、彼女への理解もなかった。
でも一つだけ、わかった。
彼女は僕の名前を知ってくれていた。
ただの隣の席の人、ではないんだな。