完璧上司は激甘主義!?
静かな給湯室内に突如聞こえてきた声に、心臓は大きく跳ね上がる。
オーバーなくらい身体が反応する中、声の主はゆっくりと私の元へと近づいてくる。

声を聞いただけで誰なのか分かる。

「ひとり言は程々にしておいた方がいいぞ?変な奴だと思われる」

私の隣でピタリと止まると、流し台には見慣れた空のカップがそっと置かれた。
彼特有の香りが鼻を掠めた瞬間、その香りに誘われるように顔を上げれば、少しだけ口角を上げた南課長が私を見下ろしていた。

その姿は普段会社では絶対に見せない一面。
プライベートでしか見せない南課長の笑顔だった。

会社で、しかも給湯室というある意味ちょっとした密室での不意打ちの笑顔に、視線は釘づけになる。
だけど南課長はそんな私の視線を気にする様子も見せず、シンクに手をつき私を見下ろしたまま聞いてきた。

「珈琲ごちそうさま。……いつも思っていたけど、なにか特殊な方法で淹れたりしているのか?」

「……え?特殊な方法??」

我に返り慌てて頭をフル回転させるものの、南課長の聞きたいことがよく分からない。
珈琲なんて会社の経費で買った安いものだし、特に工夫するもなくただカップに注いでいるだけだ。
強いて言えば、温かい飲み物の場合は湯で一度カップを温めてから淹れているくらいだけど……。


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