完璧上司は激甘主義!?
そして首に触れる柔らかい髪と、鼻を掠めるのは甘いバニラの香り。
触れる全てが柔らかくて、改札口とは逆方向に進みながらも、心を乱されていた。

「南かちょー!家に帰してくらさい!」

「帰せるものなら帰したいね」

手にしている鞄でバシバシ叩かれている今の姿は、すれ違う人の目にはどう映っているのだろうか。
きっとおかしな光景に見えているのだろうな。
いや、もしかしたら俺が新を無理矢理拐っているかのように、見えているのかもしれない。
人もまばらになってきた歩道で足を止め、いまだに担がれながら暴れ回る新の身体を、ゆっくりと地面に下ろした。

そっと下ろしたつもりだったが、地面に両足を着けた途端に新の身体は、大きく振らついた。

「わわっ!?」

「危ない!」

咄嗟に腕を引くと、胸元に飛び込んできた新の身体。
先程とは違い、真っ正面から捕らえた新の身体は、比べ物にならないほど柔らかく、そしてバニラの香りに襲われる。

「ありゃりゃ。これは失礼しましたぁ」

いまだにフラフラした足取りで離れると、おどけた笑顔を見せる新に、不覚にも部下以上の感情を抱いてしまった。
素直に笑った顔が可愛いと――。
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