星をみる
外れの丘にて
アルバートは自分の名前をとてもとても気に入っていた。
アルバート・フォン・バイエルン。
それはこの広大な大地を所有する一族にのみ与えられる名で、次期領主の座を約束されている自身に誇りを持っていた。
10の誕生日には隣国の王が土産を持参したし、12の誕生日には高名な司祭も招いた。
七日七晩かけて盛大に祝い通し、初めて酒を飲み、煙草を吸った。
そしてまもなく、アルバートは17を迎える。



「アルバートさま、お戯れを」

顔を背けながらも、メイドは本気で抵抗しているわけではない。
アルバートは壁際に追い詰めた少女を見下ろしながら、胸に垂れた髪を指で弄ぶ。

「本当に嫌?」

そんなわけがないと知っていて尋ねる。
この、名前もよく覚えていないメイドの視線は以前から感じていた。配膳や掃除の合間もよく話しかけてくれていたし、自分に気があるだろうことは容易に想像できた。

彼はナルシストとは違う。
確かに自尊心は強いけれど、今までに何度もこの類の視線を浴びてきたから解るのだ。
この人間は自分に恋をしていると。
整った顔立ちは昔から人目をひきつけ、特に女性からは評判がよかった。
褒められて悪い気など起こるわけもなくアルバートは朗らかに純粋な女たらしへと成長していったのだった。




★★★



コロンバインには両親がいない。
記憶の端っこからずっと先生と呼んでいる男と2人で暮らしている。
先生は村一番の物知りでなんだって知っていた。
虫に刺された時に効く薬草や道に迷わない方法。ほつれた糸の治し方に美味しいご飯の作り方。
だからコロンバインが持っている知識のほとんどは先生から受け取ったものばかりだった。

「ココは、いくつになった?」

その日も先生は実験に夢中で、書き物をしている最中、思い出したように顔を上げた。

「16ですよ」

コロンバインのことを、先生はよく愛称で〝ココ〟と呼んでいた。

「もう16?時間が経つのは早いな」

半分ひとりごとのように先生は呟く。

「領主の息子殿の誕生日がまた来るそうだ」

コロンバインは首を傾げる。
確か村も総出でお祭り騒ぎになっていた気がする。
実験に夢中でコロンバインは参加しなかったけれど。
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