星をみる
久しぶりに訪れた外れの丘は、やはり寂れていて、時折鳴く野鳥の声以外なにもない。

「おい」

隣を歩くヒューイに顔を向け、アルバートは眉を寄せた。

「その可愛こちゃんはどこにいんだよ」
「来る時に、馬車でここを通って見たんだよ」

二人してきょろきょろと辺りを見回す、が人っ子一人見当たらない。
アルバートは愛馬の上に顔を乗せ深いため息をつく。

「見間違いじゃねーの?」

わざわざ遠出をしたのに、とアルバートは不機嫌になる。
記憶に残っていた学者の家、とゆうか小屋はあったものの、人がいる気配はない。
農地にすら適さない丘は自然に生えた草木が好き勝手に伸びていて、人が手を加えた様子は全くない。

「おかしいなぁ」

ヒューイも首を傾げる。

「夢でも見たんだろ」

そろそろ日が暮れる時間だ。
城に帰る頃には真っ暗だろう。明かりを持ってこなかったから、早く帰らなければ危ない。

「ちなみに、どんなコだったんだ?」

愛馬に乗り上げ、帰る支度をしながらアルバートはたずねる。
ヒューイはまだ遠くに目を凝らしていた。

「栗色の髪で、丸顔で、肌は白くて、小柄だった」
「ほうほう」
「大きな本を抱えてさ、丘を歩いてたんだよ」
「大きな本、か」

だとすれば、やっぱり小屋に住む学者に関係のある人物だろう。
アルバートが考えていると、ヒューイはマントを羽織り直しはじめた。

「ま、アルの誕生祭で会えるかもしれないしね」

誕生祭は領民も総出で祝うため、確かにその娘が出席していれば会うことはできる。

「抜け駆けはなしだからな。いたら教えろよ」
「はいはい」

ヒューイも馬にまたがり、たずなをとった。
その時、遠くで響いた雷鳴にヒューイの馬がいなないた。
低い音と共に鈍色の空が広がって行く。

「一雨くるぜ」

アルバートは合図を出して走り出す。ヒューイもそれに続いた。
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