星をみる
そろそろ戻らないと。

薄暗くなってきた空を見上げて、コロンバインは立ち上がった。
分厚い観測ノートを抱えてサクサクと草を踏み分ける。
もうすぐ雨が来る。
と、丘の方から何かが駆けてきた。

-誰かしら

コロンバインは目を細めて、それを視認した。
二頭の馬が勢いよく駆けてくる。よく見るとそれぞれ人が乗っている。
驚いたコロンバインは慌ててしゃがみこんだ。
なのに、目ざといのかそのうち一人に見つかってしまう。
目があった瞬間、その青年は馬の手綱を引いて立ち止まった。
もう一人は気づかずに行ってしまう。

「おい、あんた」

しゃがみこんだままのコロンバインに、青年は馬上から声をかけてきた。
随分と横柄な態度だ。

「・・はい」
「この辺りに人は住んでるのか?」
「わたしと、学者のジル博士がそこの家に住んでいますが、それ以外は・・」
「ふうん」

青年はじろじろとコロンバインを上から下まで眺めた。

「ちょっと立ってみろ」
「え」
「いいから」

コロンバインは眉を寄せながらたちあがる。

「・・・うーん」
「なんですか?もうそろそろ行かないと、雨が降り出しますよ」
「ああ」

青年は馬から降りると、近づいてくる。

「その変な眼鏡とっていいか?」
「え」

コロンバインの返事も待たず、青年は眼鏡を外した。
途端に、コロンバインの視界はモヤがかかったようにぼやけた。
コロンバインは生まれつき視力が弱く、眼鏡なしの生活は出来ない。

「返してください」
「ちょっとよく顔見せろ」

青年はコロンバインの頬を掴み、顔を覗き込んできた。

「・・・・あんた、名前は?」
「・・・・?・・・・・・コロンバインですが」
「へえ」

至近距離で青年はにやりと微笑んだ。
顔を傾けたかと思うと、頬に柔らかく唇を押し当てられる。
ドキドキする間もなく青年は離れると、再び馬に乗った。

「オレはアルバートだ。また来るぞ」

そう言うと、来たときと同様、颯爽と駆けていった。
雨が、降ってくる。
コロンバインは慌てて走る。

「あ」

顔に手を当て、青ざめた。
さっきの青年、アルバートに眼鏡を取られたままだ。

「今夜の観測ができないわ・・・」

しかも先生もいない。
泣きそうになりながら、コロンバインはフードをかぶった。


★★★

森の途中でヒューイはアルバートを待っていた。

「急にいなくなるから心配したぞ」
「悪い悪い」

ヒューイは全く、と軽く睨んだ。
雨が完全に降り出してしまい、森の途中ではあるが、雨宿りをすることにしたのだ。

「道を間違えるような距離じゃないだろ、なにしてたんだよ」
「別に」

馬を近くの木につなぎながら、アルバートはコロンバインの事を思い出していた。
へんてこな眼鏡をしていたから最初は気づかなったけれど、とても可愛らしい顔立ちをした少女だった。
栗色の髪もふんわりと柔らかそうで、ヒューイが見惚れたのも頷ける。
町外れに住んでいるせいか、どこか反応が鈍い娘だけれどアルバートの狩猟本能に火をつけるには十分だった。

「ヒューイ」
「うん?」
「オレ、負けないからな」

ヒューイはきょとんとした後、目を丸くした。

「お前、抜けがけしたろ!」
< 5 / 9 >

この作品をシェア

pagetop