星をみる
雨は酷くなる一方だった。
このまま待っていても小降りになる様子はない。それどころか雷鳴が近づいてきている気さえする。

「ヒューイ、移動するぞ」
「はあ?どこに行くんだよ」

ここから城まで飛ばせば、大した距離ではない。
しかし、この土砂降りでは自慢の俊馬も役に立ちそうになかった。
アルバートは愛馬の手綱を掴みながら振り返る。

「この近くに猟師小屋があるはずなんだよ」
「ほんとか?」

ヒューイも立ち上がり、アルバートに続いた。
その時だった。
二人は瞬時に振り返る。
野犬の遠吠えだ。
アルバートは持っていた銃を構えた。
と、小柄な人影が飛び出してきた。その後ろに複数の野犬が飛び掛かる。
アルバートは今まさにに襲いかかろうとしていた野犬に銃を放った。
低い唸り声あげて、野犬は転がる。
飛び出してきた来た影をヒューイが受け止めた。
アルバートがその隙に銃を連発すると、驚いた野犬たちは次々に森の奥へ逃げていった。


「っ!ヒューイ!無事か?」
「ああ・・・・君は?大丈夫?」

ヒューイは腕に飛び込んできた影に向かって声をかける。
すっかり陽が落ちてしまい、辺りは暗かったけれど、掴んだ肩の細さに、影が女性だとわかった。

「・・はい」

顔を上げた娘に、ヒューイは驚いた。
探しに来た娘その人だった。

「君・・」
「コロンバイン!」

ヒューイを遮って、アルバートも声をあげる。

「もしかして、オレを追ってきたのか?」
「違います」

即答したコロンバインは、じっとヒューイを見上げた。
そして、そっと顔に触れる。
突然のことにヒューイはぎこちなく固まる。

「え、なに・・」
「あなた、アルバートさんじゃないのね」

そう言って、コロンバインはよろよろとヒューイから離れた。

「アルバートさん、そこにいるんですか?」
「え、ああ」

アルバートが近寄ると、コロンバインは手を差し出してきた。

「眼鏡、返してください」







三人はずぶ濡れになりながら森の中ほどにある小屋にはいった。
暖炉に火を灯すと、わずかに明るくなる。

「とりあえず、コロンちゃん、身体ふきなよ」

ヒューイは小屋に常備してあった毛布を渡した。
コロンバインは礼を言って受け取る。

「アルバートさん、眼鏡は」
「はいはい、ここにあります」

アルバートは上着を脱いだあと、眼鏡を渡した。

「・・・絶対眼鏡ない方が可愛いぞお前」
「でも眼鏡がないと星が見えません」

ようやく視界が定まったらしいコロンバインはほっと息をついた。
そして持っていたバッグからランプとノートを取り出す。

「なにやってるの?」

ヒューイが興味深けにコロンバインの開いたノートを覗き込む。
中には天体の記録が詳細に載っていた。

「観測です。ちょっと、外に出てきます」
「え、まだ雨ひどいよ。今日は休んだら?」
「一日でも休んだら正確な記録が残りませんから」
「だからもちっと待てって。もう少し小降りになってからでも遅くないだろ?」

出ていこうとするコロンバインの袖を掴み、アルバートは隣に座らせた。
不満そうにコロンバインはアルバートを睨む。

「あなたが眼鏡を盗まなければ家の窓から観測ができました」
「だから、返しそびれただけだって」

だいたいそんな変なデザインの眼鏡誰が盗むんだよ
ぼそりと言うと、コロンバインはさらに機嫌を悪くした。

「これは先生が作ってくれたわたしの宝物です。ほっといてください」

険悪な二人の間にヒューイが苦笑いをしながら割って入った。

「まあまあ二人とも。コロンちゃん、雨が止んだら家まで送るからさ」
「・・・結構ですよ。でも、先ほどは助けてくださってありがとうございました」
「いいよ、野犬を追い払っただけだし。それに元々、アルバートが君の眼鏡を取ったのが原因なんだしさ」
「・・・それもそうですが」
「それより、コロンちゃんの話もっと聞きたいな」

ヒューイがだした甘い声に、アルバートはぴくりと反応する。
そうだ。
ゲームの最中だった。
なにも言わないが、おそらくヒューイはコロンバインに接触した事を根に持っている。

「わたしの話ですか?」
「うん、君の言う先生って、あのジル博士の事でしょ?」
「はい。先生をご存知なんですか?」
「もちろん。ジル博士は町でもとても高名な学者だよ」
「そうなんですか。やっぱり先生は素晴らしい方なんですね」

コロンバインは初めて嬉しそうな、誇らしげな顔で微笑んだ。
眼鏡をかけてはいてもアルバートにはそれが可愛らしく見えた。
ヒューイはどうだろう。

「うん。ジル博士は時々僕の城にも来るし」
「お城に住んでるんですか」
「ああ、言ってなかったね」

会話に中々入れず、アルバートは暖炉の火をいじった。

「僕たちはいとこ同士でさ、僕はリロアの領主の息子。アルバートはここの領主の息子なんだ」
「領主様の?」

コロンバインは驚いた二人を見比べた。

「そうだぞ。オレの誕生祭があるからヒューイも祝いに来たんだ」
「まあ、そうだったんですか」
「うん。それで二人で外れの丘まで遊びに来てたら雨に降られちゃって」

ヒューイは少しばかり嘘をつきながらアルバートにニヤリと意味深な笑みを向けた。

-アル、楽しいゲームになりそうだね



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